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November 10, 2012

スタチンの使用と癌関連死亡率の低下

20121110_disturbing_issue久しぶりの、真面目な?エントリーです。

タイトルの論文は、NEJM NOVEMBER 8, 2012 VOL.367 NO.19 に掲載されており、いろんなところで話題にされています。

この論文を目にした時、複雑な思いがこみ上げてきた。「やっぱりねぇ~」「でも、いまさら・・・」「なんで今頃・・・」「こんなんじゃ、全然スッキリしないんだよねぇ・・・」などなど。

コレ、自分の中では、かなり前に、一応の決着がついていて(理由はわかんないってこと)、「理論的にはそうなるはずだけど、でも、実際(臨床)はどうなんだろう?」って思っていたことことなのです。

このブログで「スタチン」をキーワードに検索すると、November 19, 2002 あたりから気にし始めているみたいだ。

10年前の11月に(10年経った今月に、こんなことを思いださせてくれるような論文の掲載はオレのためなのか???なんちゃって)、『スタチン系薬剤の作用機序』なんてタイトルで、今読むと、ちょっと恥ずかしいくらいに、これで全てが説明できるかのような調子で文章を書いている。検索されたタイトルを流れに沿って、読み返してみると、なるほど、現象(表現型)に対する分子生物学的なロジックは、「色々あるんだなぁ」と理解していく過程が読み取れる。

こんな紆余曲折があって、現在、「(細かいことが)わかればわかるほど、わかんないことが増えるじゃん」って境地に至り、漢方薬を見直したりしているわけなのだが・・・。

とりあえず、NEJM の論文を読んでいただいて・・・・

Statin Use and Reduced Cancer-Related Mortality

S.F. Nielsen, B.G. Nordestgaard, and S.E. Bojesen


背 景

コレステロールの利用量を減らすことにより、癌の増殖や転移に必要な細胞増殖が制限される可能性がある。われわれは、癌と診断される前に開始されたスタチンの使用は、癌関連死亡率の低下と関連するという仮説を検証した。


方 法

デンマークの住民全体で、1995~2007 年に癌と診断された患者を 2009 年 12 月 31 日まで追跡し、死亡率を評価した。40 歳以上の患者では、18,721 例が癌と診断される前からスタチンを定期的に使用しており、277,204 例にはスタチンの使用歴がなかった。


結 果

スタチン使用者の未使用者に対する多変量補正ハザード比は、全死因死亡について 0.85(95%信頼区間 [CI] 0.83~0.87)、癌死亡について 0.85(95% CI 0.82~0.87)であった。スタチンの 1 日規定量(1 日あたりの推定平均維持量)別の全死因死亡の補正ハザード比は、1 日量が規定量の 0.01~0.75 倍であった患者では 0.82(95% CI 0.81~0.85)、0.76~1.50 倍であった患者では 0.87(95% CI 0.83~0.89)、1.50 倍を超える患者では 0.87(95% CI 0.81~0.91)であり、癌死亡のハザード比はそれぞれ 0.83(95% CI 0.81~0.86)、0.87(95% CI 0.83~0.91)、0.87(95% CI 0.81~0.92)であった。13 種類の癌別にみても、スタチン使用者の癌関連死亡率はスタチン未使用者と比較して低下していた。


結 論

癌患者におけるスタチン使用は、癌関連死亡率の低下と関連している。このことから、癌患者を対象にスタチンを検討する試験が必要であることが示唆される。


N Engl J Med 2012; 367 : 1792 - 802.
Copyright (C) 2012 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.


血中のコレステロール値だけに注目して、この現象を説明できるかというと、そんなことはありえない。最近じゃスタチンの pleiotropic effect などで説明しているけど、文字通り、多面的すぎて、ともすれば、とっちらかって収集つかないのが現状。世間じゃ、コレステロールは悪者にされてるから、コレステロールを下げれば“いいこと”ありそう、、ってんで、コレステロール値と関係ありそうなんだけど、、、(薬を使わなくって、すなわち、体質とか環境要因=栄養失調とかで低コレステロールの人はがんが多いって疫学データがあるそうで、それをスタチン服用と結びつけて、、、試験のやり方によっちゃ、がんが増える結果がえられんですよ、、、コレステロールを下げすぎるとがんになるなんて理屈もあるそうです)、、、

血中のコレステロール値を薬によって低下させるだけなら、その合成経路のどこかをストップすればよいのだが、スクアレンを合成する酵素を阻害するなら、中間産物のファルネシルピロリン酸の量は逆に増える。

理論的には、このコレステロール低下作用で、がんは増える。。。っていうか、Ras のファルネシル化が進む(筈)。Ras は細胞膜に局在しないと役割を果たさない。その局在するためのアンカー(繋ぎ止める錨)がファルネシル化。そして、Ras は、“がん遺伝子”と呼ばれている。。。


私が知りたいのは、スタチンのがん予防効果が、“Ras = 細胞増殖因子の受容体機能に及ぼす影響”の結果なのか?ということなのだ。

今回の論文では、それは全くわからない。この10年、知りたいところ、すなわち、“核心”である“ファルネシルピロリン酸の量”について、ヒトで検討した研究が無いのだ。

「そんな細かい事、わかんなくったってイイじゃん」との思いもあるのだが、基本的に私は、知りたいことがわからない、奥歯に物が挟まったような状態に身を置くことは好きではない。

やっぱりどうしても、そこん所が、知りたい・・・・知りたい・・・・。

武田薬品が作ってたスクアレン合成酵素阻害薬 TAK-475 はどうなったのであろうか??これで、ヒトでがんが増えれば、、、、、決定的?


もうひとつ、ついでに、最近、気になっていることが、、、、iPS 細胞のノーベル賞もあってか、臨床応用に関連して、、、、“ヘテロ接合性の消失”が気になっている。

というか、X染色体以外では、対立遺伝子は、ほんとに両方(父方、母方)とも転写されてるのか?という、最も基本的な疑問が、よくわからないからなのだ。

いわゆる“がん化”で、“ヘテロ接合性の消失”を理解しようとすると、もともと、父方か母方のどちらか一方の遺伝子が“機能不全”しており、そこに、機能が保たれた方が不全に陥って、、、、ってことで、一般には理解されている。でも、常染色体でも、X染色体みたいになっていれば、話は、もっと簡単だ。

そんなところに、下の論文が・・・・

うん?じゃ、iPS は、大丈夫なのか? iPS を造血系の病気の治療に使ったとして、、、対立遺伝子の発現は、フレキシブルに変化するのか??

もっとも、iPS を幹細胞の状態のまま、ヒトの体に戻すことはしないだろうから、こんなことは、気にする必要も無いのだろうけど、、、、気になる。

幹細胞が非対称分裂する環境(ニッチ)では、その辺、どうなってんだろう??


話は戻って、老化(=ニッチの減少した状態)は、がん発生が多くなる。がん発生のすべての原因が“ヘテロ接合性の消失”でないことはわかってるんだけど、老人のがんが多いのは、もともと、対立遺伝子の片方が機能不全とするよりは、がん発生の多い臓器の細胞では、遺伝子発現が、X染色体みたいに、父方か母方がどちらか一方のほうが、説明しやすいように感じているのだが、いかがでしょうか?

(なんか、基本的な勘違いをしているような気もするのだが・・・・・)

発生: 幹細胞がとりうる2通りの経路

Nature 490, 7421

2012年10月25日

ゲノムの大部分では、対立遺伝子の両方が発現している。

つまり、2つの染色体上の同じ遺伝子が転写されているが、いくつかの部位では母系あるいは父系のどちらかの染色体の遺伝子のみが発現しており、そのような部位の1つが免疫グロブリン領域である。

今回、初期の造血幹細胞では、個々の細胞が2つの対立遺伝子のどちらでも発現できることが明らかになった。

しかし、このような細胞は、リンパ系細胞の発生が進むにつれて、父系あるいは母系のどちらかの対立遺伝子のみを発現するようになり、この選択はその後もクローン的に受け継がれる。

このような拘束は、2つの対立遺伝子間での複製時期パターンの変化と相関している。

この機構は、2つの異なる状態を作り出す方法を持たせることで、幹細胞にこれまでに知られていなかった形の幹細胞可塑性を付与している。

Letter p.561
doi: 10.1038/nature11496

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