« スタチンの使用と癌関連死亡率の低下 | Main | ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針は4年に一度の改定 »

November 28, 2012

30 年間のマンモグラフィ検診が乳癌発生率に及ぼした影響

20121128_3mouseこの研究の背景には、『検診は、生命にかかわる疾患を、より早期に、治癒可能な段階で発見するものでなければならない』といった、医療従事者に課せられた“使命感”と、世の中の人々の“希望”に叶うものであって欲しいという“期待”が入り混じっているように感じる。

裏を返せば、『生命にかかわる疾患は、ほんとに、早期発見で治癒が可能なのか』という疑問が、医療従事者の側に、潜在的にあることを示しているともいえる。

結果は、、、、無難なところにまとめちゃってるのかなぁ~って。

個人的には、命に係わる疾患は、早期だろうと後期だろうと、治癒率は変わらず、すなわち治療に反応する人(体質)だけが治癒するって思ってるんだけどね。

だけど、治療を開始する前に、「誰が治療に反応するのか?」を探り当てるのは、非常に難しい(代謝酵素や受容体の多型だけにとどまらず、もっと多次元での話で)。その難しさの中で、医療従事者は「あたなには治療は無駄です」なんてとても言えない。

いろんな、問題(私は“医療は科学ではなく社会学である”が持論です)が絡み合って、さらに問題を複雑にしているものの一つに、この“検診”があるんだろうと思う。

Effect of Three Decades of Screening Mammography on Breast-Cancer Incidence

A. Bleyer and H.G. Welch


背 景

死亡率を低下させるためには、検診は、生命にかかわる疾患を、より早期に、治癒可能な段階で発見するものでなければならない。したがって、効果的な癌検診プログラムは、癌が早期に発見される率を高めると同時に、後期になって受診する率を低下させるものである。


方 法

サーベイランス・疫学・最終結果(SEER)のデータを用いて、1976~2008 年にかけての、40 歳以上の女性における早期乳癌(非浸潤性乳管癌、限局癌)および後期乳癌(局所癌、遠隔転移)の発生率の動向を検討した。


結 果

米国におけるマンモグラフィ検診の導入は、各年に発見された早期乳癌の症例数が 10 万人あたり 112 例から 234 例と、2 倍の増加に関連しており、増加の絶対数は 10 万人あたり 122 例であった。同時に、後期癌で受診する率は、10 万人あたり 102 例から 94 例へと 8%減少し、減少の絶対数は 10 万人あたり 8 例であった。一定の基礎的疾病負担があると仮定すると、検診によって追加的に早期癌と診断された 122 例のうち 8 例のみが、進行癌に進展すると予想された。ホルモン補充療法に関連する一過性の超過発生を除外し、40 歳未満の女性の乳癌発生率における動向で補正すると、この 30 年間で 130 万人の米国人女性で乳癌が過剰診断された(臨床症状の発現にはいたらなかったであろう腫瘍が検診で発見された)と推定された。2008 年には、70,000 人以上で乳癌が過剰診断されたと推定された。これは診断されたすべての乳癌の 31%に相当する。


結 論

早期乳癌の発見数は大幅に増加したにもかかわらず、マンモグラフィ検診により、進行癌で受診する率はわずかしか低下しなかった。どの女性が影響を受けたのかは確かではないが、この不均衡は、新たに診断された乳癌のほぼ 1/3 に相当する大幅な過剰診断があったこと、また、検診は乳癌死亡率に対して影響があったとしても小さいことを示唆している。


N Engl J Med 2012; 367 : 1998 - 2005.
Copyright (C) 2012 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.


もひとつ、ちょっと古いんだけど、これなんかも、医療従事者は知っているけど、その真実を患者さんに言えない代表なんじゃないかな?
進行癌に対する化学療法の効果に関する患者の期待

Patients' Expectations about Effects of Chemotherapy for Advanced Cancer

J.C. Weeks and others


背 景

転移性の肺癌または大腸癌は、化学療法によって生存期間が数週間から数ヵ月延長し、症状が緩和される可能性があるが、治癒は得られない。


方 法

癌治療転帰調査・監視(CanCORS)研究(全米規模の前向き観察コホート研究)の参加者で、癌診断後 4 ヵ月の時点で生存しており、新たに診断された転移性(IV 期)の肺癌または大腸癌に対して化学療法を受けた 1,193 例を対象とした。化学療法によって治癒する可能性があるという期待をもつ患者の割合を明らかにするとともに、この期待に関連する臨床的因子、社会人口学的因子、医療制度的因子を同定することを試みた。データは診療録の包括的な再検討のほか、専門の面接者による患者調査から得た。


結 果

全体で、肺癌患者の 69%と大腸癌患者の 81%が、化学療法によって癌が治癒する可能性はまったくないことを理解しているという回答をしなかった。多変量ロジスティック回帰では、化学療法に関する誤った考えを報告するリスクは、大腸癌患者のほうが肺癌患者よりも高く(オッズ比 1.75、95%信頼区間 [CI] 1.29~2.37)、非白人患者やヒスパニック系患者では非ヒスパニック系白人患者よりも高く(ヒスパニック系患者のオッズ比 2.82、95% CI 1.51~5.27;黒人患者のオッズ比 2.93、95% CI 1.80~4.78)、医師とのコミュニケーションについてきわめて良好と評価した患者では、あまり良好でないと評価した患者よりも高かった(最低三分位群に対する最高三分位群のオッズ比 1.90、95% CI 1.33~2.72)。教育水準、機能状態、意思決定における患者の役割と、化学療法に関するそのような誤った考えとの関連は認められなかった。


結 論

不治の癌に対して化学療法を受けている患者の多くは、化学療法によって治癒する可能性は低いことを理解していない可能性があり、そのため、十分な情報に基づいて、自身の意向に沿った治療を決定する能力に欠けているおそれがある。医師は患者の理解を深められるかもしれないが、これは医師に対する患者満足度の低下という代償を伴う可能性がある。(米国国立がん研究所ほかから研究助成を受けた。)


(N Engl J Med 2012; 367 : 1616 - 25.)
Copyright (C) 2012 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.


上は、言葉悪くいうと、「治るかどうかわからない治療に自己満足的な望みをかけて、湯水のごとく医療費を使っている現実」が、そこにはあるということだ。

結論にある「不治の癌に対して化学療法を受けている患者の多くは、化学療法によって治癒する可能性は低いことを理解していない可能性があり、そのため、十分な情報に基づいて、自身の意向に沿った治療を決定する能力に欠けているおそれがある」という言葉は、重く受け止めなければならない。


無駄を省くという意味でも。


久しぶりに、こんな事を書こうと思ったのは、昨日、古い友人から電話があったからだ。この友人は特定の政党を応援しているので、総選挙が近いから“お願い”の電話をかけてきたってワケなのだが。。。

そのお願いは「ハイハイ、じゃ入れとくよ」って簡単に済んだんだけど、、、、

最近の私は、政治に期待しても報われない、、、などと厭世的になっているせいもあって、世間話が消費税に及ぶにいたり、『増税する前にやることあんだろう?』って持論をぶちあげる羽目になったからだ。


日本では予算の中に占める医療費がかなり多くて、年々“兆”単位で増えている。

その為に、もうすぐ消費税率が上がろうとしている。

いや、国民の血税を「無駄なところ(医療費)に使うんじゃない」と言ってるんじゃない。

効果があるのかどうかも分からない行為を個人的な“希望”、“期待”の為に行うことの是非を問うことなしに行うな!と言いたのである。

さらに、そういうことを議論の俎上に載せもせず、続けることが、上の勘違いのように国民に「医療は万能である」と勘違いさせることにもつながるからだ。

それでも、国民の51%が、効果が無くても“希望”持ちたいというのであれば、私だって税金は当然払うのだ。民主主義国家の日本人だからね。医療を医学的な面からだけ論じるほど“お子様”じゃないし。

それに、ここにも何度も書いてるけど、医学、医療の限界に幻滅し、自分の仕事に自信を持てなくなり、落ち込んでいた私はロシュフコーの言葉「希望はずいぶんと嘘つきではあるけれど、とにかく私たちを楽しい小径(こみち)を経て、人生の終わりまで連れて行ってくれる」に精神的に救われてから、医療は患者さんに“希望”を与えるものであるという考え方に変わったこともあるし。

とはいえ、日本に石油が湧き、無尽蔵にお金が使えるなら話は別だが、限りある原資をどのように配分するのかということについては、人間、一人一人、価値観が違うわけだから、現実から目をそらさず、真実を公開し、その上で、どうするのがいいのか、“政治的”に決めてほしいわけなのだ。


でも、今、そんなことを言ってる政治家を私は知らない。というか、最近、「どうせ、そんなこと言える政治家なんているわきゃねぇよな。みんな“いい人”になりたがってるだけだからね」って思ってるから、テレビも見ないので知らないだけかもしれないけど。

|

« スタチンの使用と癌関連死亡率の低下 | Main | ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針は4年に一度の改定 »

ああ、いっぺん言うてみたかった」カテゴリの記事

医学薬学・生命科学」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« スタチンの使用と癌関連死亡率の低下 | Main | ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針は4年に一度の改定 »