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November 19, 2002

スタチン系薬剤の作用機序

トピックスで、【スタチンで多発性硬化症をストップ】【スタチンがリンパ性悪性疾患を増加か、日本の症例対照研究が示唆】 と立て続けに2本紹介した。以前から、スタチン系の細胞周期に及ぼす影響は紹介しているのだが、スタチン系の作用機序を考えれば、当然のように理解出来る現象なのだが、しかし、いくら作用機序を知っていても、これらの現象を予測することは出来ない。人体の複雑さを思い知らされる。

今回紹介した2本も、全く関係ない様に見えるが、実は、作用機序に基づく現象として理解出来る。結局、スタチン系を細胞増殖抑制薬として認識していれば簡単なことなのだ。

【スタチンがリンパ性悪性疾患を増加か、日本の症例対照研究が示唆】の中で、『冠動脈疾患患者など、スタチン系薬を必要とする患者がいることは確かだが、安易な増量や、骨折やアルツハイマー病などの予防効果を期待した安易な適応拡大には警戒を要する』と東京大学大学院循環器内科の岩田洋氏も述べているように、本来は、“要注意”の薬剤で、言葉を替えれば“抗がん剤”とも言えるのだ。

大切なことなのだが、日常業務をしている時には、ついつい忘れてしまいがちになる。自戒の意味を込めて、作用を記しておく。


基本の経路
●HMG-CoA→メバロン酸→ファルネシルピロリン酸→・・・コレステロール

1)HMG-CoA 還元酵素を阻害することにより、コレステロールが低下
   (これは、保険適応の効能だ。)

2)HMG-CoA 還元酵素を阻害することにより、ファルネシルピロリン酸低下
Ras は、ファルネシル基転移酵素の作用を受けて、ファルネシルピロリン酸よりファルネシル基を付加される。このファルネシル基は、Rasを細胞膜の内側に留めておく為のアンカーの役割をしていて、細胞膜の内側に位置していないと、SOS(Rasアクチベーター)によってGDP結合型からGTP結合型に変換されず、従って、それ以降に続くRafの活性化→MAPキナーゼの活性化が起こらないため、細胞増殖が起こらないといういうわけだ。

Ras の経路
●EGF(上皮増殖因子)を例に取って説明してみる。
EGFがEGF受容体に結合すると受容体細胞内領域のキナーゼが活性化し、これまた同じ受容体細胞内領域のチロシン残基がリン酸化される。

リン酸化チロシン残基に、SH2ドメインを持つ物質(Ash/Grb2)が結合する。

Ash/Grb2はアダプター蛋白と呼ばれていて、SH2で受け取った情報を次に伝える事しかしないのだが、このAsh/Grb2の次に結合する蛋白の1つに、Sosがある。

Sosは、Rasアクチベーターと呼ばれていて、GDP結合型(不活性型)RasをGTP結合型(活性型)Rasに変換する働きがある。
↓(★スタチン系は↑に作用して細胞増殖を抑制するってワケだ)
Sosによって活性化されたRasは、c-Raf-1を活性化する。(複雑な活性化機構なのだが、それは、省略。)

活性化したRaf(c-Raf-1)は、MAPキナーゼ系の活性化につながる。

実は、Raf自体がMAPキナーゼキナーゼキナーゼとして、機能するのだ。
(MAPキナーゼキナーゼキをリン酸化して活性化する酵素ってわけだ。)

リン酸化されたMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)は、MAPキナーゼをリン酸化し、このMAPキナーゼが、標的分子であるmycなどの転写因子のリン酸化を介して、転写活性を調節しているのだ。(ちなみにMAPキナーゼは、mitogen activated protein kinase の名が示すように、細胞分裂を促進するセリン/スレオニンキナーゼとして発見されている。)

そして、mycなどにより、S期に必要な初期遺伝子が転写され、細胞はM期(分裂)に向けてスターを切る事になる。
(myc自体の産生の調節はCDK、p53、Rbなどのキーワードでおなじみの制御系が担っている。)


3)上記経路のメバロン酸以降の代謝物の減少により、G1→S の移行が停止する。
G1→S へは、cdk2 の活性化が必要。
cdk2 の活性化には cyclin E が必要。
cdk2 の抑制には p27(Kip1)とp21(ご存知p53によって転写・翻訳される蛋白。別名 waf1,sdi1,cip1。)が関与。

cdk2 は、Rb をリン酸化。→ Rb は E2F を遊離。→ E2F は核に移行してS期移行に必須の myc 遺伝子を転写促進。(myc の活性調節は Ras-Raf-MAPキナーゼ系に委ねられる)

G1→S の移行停止には、p27の減少の抑制が関与。
※メバロン酸以降の代謝物の減少により、p27 がタイミング良く減少してくれないので、cdk2 と 複合体を作ったままで、cyclin E にリン酸化されても、E2F を遊離しないのである。(ただし、メバロン酸以降のどの代謝物の減少が p27 の減少を抑制するのかは、わかっていない)

スクワレン合成阻害剤はHMG-CoA還元阻害酵素がゲラニルピロリン酸を減らすのに対して、

HMG-CoA
↓・スタチンによる阻害
メバロン酸



ファルネシルピロリン酸 → ゲラニルピロリン酸
 ↓    
スクワレン

ゲラニルピロリン酸を<<増やす>>ので、俗に言われている“抗がん作用”が「脂質降下作用」なのか、ゲラニルゲラニル化蛋白とかファルネシル化蛋白のせいなのか、弁別する一つの方法。通常の実験系ではメバロン酸を給餌したり、培地に入れて検討する。

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